アクリル絵具の基礎知識と可能性

アクリル絵具が発明されたのは1950年代で、その歴史は70年あまりです。500年以上続く油絵具の歴史に比べるとアクリル絵具の歴史はまだまだ浅いものです。しかし現在アクリル絵具は、油絵具・水彩絵具と肩を並べ3大絵具として一般的に定着し、愛用するアーティストも多くいます。今回はそんなアクリル絵具の歴史から特徴、オススメの絵具までまとめて解説します。

1 アクリル絵具の歴史

アクリル樹脂の誕生

アクリル絵具の原料となるアクリル樹脂は、ドイツのオットー・ローム(1876年-1939年)によって1901年に開発されました。アクリル樹脂が家庭用塗料として開発された当初は、顔料をたくさん入れないと絵具として使用できなかったため、パステルカラーしか作れませんでした。そのため、初期のアクリル絵の具が画家に使われることはありませんでした。

メキシコ壁画運動

1920年代、南米のメキシコで大きな壁画を描く運動がおこりました。その運動は、メキシコ人のルーツやアイデンティティを伝えることを目的としたもので、主に公共建築の外壁に絵が描かれました。その際使用する絵具に求められたのは、屋外の天候に耐えられる耐久性でした。そしてメキシコ壁画運動の画家たちと科学者が協力し、アクリル絵具が開発されました。

画家用のアクリル絵具「リキテックス」の誕生

1955年にアメリカの「パーマネント・ピグメント」社が、水性のアクリル樹脂エマルジョンで作られた絵具を開発しました。その絵具は「リキテックス」と命名され、デザインやアートの分野で使用されるようになりました。

2 アクリルエマルションとは?

アクリルエマルションとは、アクリル樹脂を水中で乳化重合させたもので、絵具や塗料に使用される合成樹脂のひとつです。アクリル樹脂の長所は、透明度が高く、衝撃に強いところです。また、シンナーで希釈しなければならない溶剤系塗料に比べ、アクリルエマルションを原料として作られた塗料は、水で溶くことができるので、より手軽に使用することができます。

3 アクリル絵具の特徴

アクリル絵具にはおもに次のような特徴があります。

乾くのが早い

アクリル絵具の大きな特徴のひとつは、乾くスピードの早さです。キャンバスや紙以外の支持体でも、水彩絵具と同じくらいの早さで乾きます。

多彩な作風が可能

水分量の調節やメディウムを使用することにより、水彩風・ベタ塗り・油彩風など、多様な作風で仕上げることができます。

様々な支持体に描ける

紙やキャンバスのみでなく、木・布・石など幅広い素材に描ける汎用性も備えます。表面が油性のもの以外であれば、ほとんどの素材に描くことが可能です。

耐水性・耐久性

アクリル絵具は水で溶いて使用しますが、乾くと耐水性になります。また絵具の層をしっかり重ねると、衝撃に強く耐久性のある画面になります。

メディウムのラインナップが豊富

アクリル絵具には、盛り上がり方や、ツヤを調整するためのメディウムが豊富にあります。下地のマチエールや表面の質感をメディウムで変化させることによって、さまざまな表現が可能です。

マットで均一な表現ができる

アクリル絵具も水彩絵具と同じように不透明な「ガッシュ」という種類の絵具があります。アクリルガッシュは水彩のガッシュに比べて、よりマットで均一な画面をつくることが可能です。

4 アクリルガッシュ

アクリルガッシュの特徴

通常のアクリル絵具はツヤのある質感で、透明性があります。それに対してアクリルガッシュは、マットな質感で、不透明な絵具です。そのため、筆跡を残さず、塗りむらのない均一な作画ができます。フラットなイラストやデザイン画が描けるので、多くのイラストレーターやデザイナーが使用しています。

また、アクリル絵具には「透明色」「半透明色」「不透明色」といった分類があります(透明性の違いは顔料の種類によってことなります)。下の写真では、アクリル絵具の「透明色」・「不透明色」とアクリルガッシュの透明度の差を比較しています。

アクリル絵具「透明色」
アクリル絵具「不透明色」
アクリルガッシュ

「ガッシュ」とは?

「ガッシュ」とは、本来フランス語で不透明水彩技法のことを指します。そこから転じて、不透明の水性絵具のことをガッシュと呼ぶようになりました。アクリルガッシュがあるのと同じように、水彩絵具にも不透明な水彩ガッシュがあります。

不透明になる理由

通常のアクリル絵具とアクリルガッシュの違いは、顔料とアクリルエマルションの配合比です。アクリルガッシュは、通常のアクリル絵具に比べ、顔料が多くアクリルエマルションが少なく配合されています。顔料が多いので不透明でマットな質感になります。

5 アクリル絵具の可能性

ミクスドメディアの可能性

アクリル絵具は強い固着力を持っており、描ける素材の幅が広いのが特徴です。さまざまな素材を使用するミクスドメディアの可能性が広がる絵具です。

描画スタイルの可能性

水で薄く溶くと水彩画のように、チューブから出したままの生の絵具で描けばまるで油絵のように描くこともできます。豊富な種類が開発されているメディウムを使用すると、盛り上がり方やツヤ感をコントロールし、幅広い表現が可能です。

6 アクリル絵具の課題

乾燥後に痩せる

アクリル絵具は、描画しているときに比べ、乾燥後は体積が減り、痩せたように見える特性があります。重厚感のある表現をする場合は、下地作りや絵具の厚みを工夫する必要があります。

乾燥後に色がしずむ

アクリル絵具は、乾燥後に色がしずむ傾向があります。変化の差は、色によってことなりますが、濡れている段階の「濡れ色」が鮮やかであっても、乾燥後の「乾き色」は、少し暗くしずんだ色になります。色の変化のしかたも考慮にいれて色を作る必要があります。

寒さに弱い

アクリル絵具は寒さに弱い性質を持っています。絵具が4℃以下になると塗膜ができにくくなり、接着力が弱まります。そのため、冬の寒い時期は、外での使用を避け、保管に注意しなければなりません。もし冷えて絵具の状態が変わってしまった場合は、温かい場所で少し温めてからしばらく置くともとに戻ります。

7 オススメのアクリル絵具

ターナー U-35アクリリックス

「アートの未来を拓く次世代アーティストたちの表現力をこれまでにない高度なクオリティとともに究極のコストパフォーマンスで応援したい」その想いのもと、ターナー色彩の70年を超える歴史を背景に色彩を探求してきた知と技を結集して誕生したアクリル絵具です。
全81色中66色に単一顔料を使用。発色や透明性はもちろん、耐光性、描き心地のすべてにターナー史上最高ランクの品質を実現しました。

リキテックス アクリリック

リキテックスには、レギュラータイプとソフトタイプがあります。レギュラータイプは、チューブから出してそのままナイフでタッチがつけられるくらいの硬さに調整してあります。色数はメタリックカラー9色を含む114色です。ソフトタイプは、練りがやわらかく、薄く塗り広げることが可能で、 美しいサテン (半ツヤ)調の仕上がりのアクリル絵具です。

アムステルダム アクリリックカラー

オランダの専門画材メーカー、ロイヤルターレンス社のアクリル絵具。優れた品質、幅広いバリエーション、バランスの良い配色で世界中で愛用されています。価格もリーズナブルで普通色73色に特別色17色を加えた全90色。

ホルベイン アクリリック

油絵具のような高めの粘度で固着性にすぐれ、扱いやすいアクリル絵具。絵画表現からホビー、クラフト、イラストレーションとジャンルを選ばずあらゆる作品の制作に最適です。

ターナー アクリルガッシュ

色数が多く、日本の伝統色や蛍光色やパール色など豊富なカラーラインナップを発売しているターナー色彩のアクリルガッシュ。長年デザイナーやイラストレーターから愛されています。