キャンバスの性質と保存方法について
キャンバスの構造
張りキャンバスは、木枠に画布を張り釘で止めてあるものです。
木枠の素材と画布の素材の組み合わせで張りキャンバスの性格が決まります。
木枠の種類
キャンバス木枠に用いられる木枠は主に以下の3種類です。
- 杉材…丈夫で反りや曲がりに強いのが特徴です。張ったキャンバスを剥がして張り直すにも十分な強度です。
- 桐材…とても軽量で防虫作用に優れています。反面、強度の面では劣り、張り直しにはほとんど向きません。
- 集成材…杉や桐を集成しているので反りなどが無く、純粋な杉材よりも安価な上に軽量です。
キャンバス布の種類
張キャンバスに用いられる画布は主に以下の4種類です。
- 麻…とても丈夫で、また乾性油に対しての耐性もあるため、古くから油採用のキャンバス画布として用いられてきました。
- 綿…コットンの画布は麻よりも白く伸縮性に優れています。アクリル画用の画布として発展してきました。
- 化繊…ポリエステルやビニロン繊維を用いて織られた画布で、油彩・アクリルなど幅広く対応します。
- 混紡…麻と化繊、綿と化繊など2種類の糸が混紡されており、安価で幅広い用途に対応します。
木枠と画布のダメージ要因
木枠や画布には主に以下のダメージが起こります。
ダメージの要因として、木枠も画布も「湿度」の影響を受けることに注目してください。
木枠へのダメージ
- 反り……木枠自体の強度、画布との関係、または湿度の問題により木枠が曲がったり反ったりします。
- 割れ……木枠自体の強度、または保管や運搬時に強い衝撃が加わることで木枠に割れが生じます。
画布へのダメージ
- シワ……湿度の問題による画布の伸縮や、誤ったキャンバスの張り方などによりシワが発生します。
- 破れ……画布自体の強度(伸縮性)、保管や配送時に外部からの要因で画布が破けてしまいます。
木枠や画布の強度的問題は、厳選された良質の製品をご提供させて頂いておりますので安心してお使い頂きたいところですが、製作または保管中の取扱いによってはダメージを負ってしまうことがあります。
湿度の変化から影響を受けやすいので、変化への対応が必要です。
湿度への対処法
キャンバスが置かれる環境として理想的なのは気温(室温)17℃~25℃、湿度44%~55%です。美術館はこの範囲内で作品の保管と展示を行うよう常に心がけています。
名画が今なお残り続けているのはこの徹底した管理によるところが大きいのです。従って、アトリエや倉庫などをこの範囲に近づけることが目標となります。
これを見誤ってしまうとキャンバスに膨張・収縮が発生し、シワがよったり逆に画布が強く張られ過ぎて木枠が歪みます。では、具体的に湿度を調整していく方法をご紹介します。
温度と湿度を一定に保つ
温度を上げると、湿度率が相対的に上がります。
湿度計で部屋の湿度を把握する
製作や保管はなるべく締め切った空間で行う
加湿器などはなければ霧吹きや電気ポットなどで代用しても構いません。要するに調整さえ出来れば良いのです。
大切なことは常に温度/湿度を確認し、対処するクセをつけると言うことです。描きっぱなし置きっぱなしが一番の敵です。
湿度の影響を利用したキャンバスの張り方
最後にこの湿度の影響を逆に利用したキャンバスの張り方をご紹介します。
湿度の高い雨の日にキャンバスを張る、たったこれだけです。
湿度の高い雨の日はキャンバス画布が緩みやすくなり、柔軟性が出て張りやすくなります。この環境下でキャンバスを張り、晴れの日の温度/湿度になると画布がピンと張ったしっかりとしたキャンバスになります。
つまり、雨の日に張ったキャンバスは晴れの日には張りが強くなる、ということです。ぜひ一度お試しください。
※雨の日にキャンバスを強く張りすぎると、晴れた日に張りが強くなりすぎて木枠が歪んでしまいます。シワが出ない程度の強さで張りましょう。
おわりに
環境と上手に向き合い、作品を守ることもアーティストの務めです。
かけがえのない、世界に一つだけのあなたの作品。いつまでも残し続けていきたいものです。