キャンバスの張り方 - 3つのプロセスから徹底解説

おもに油彩画の支持体として使われる「張りキャンバス」。その構造はフレームとなる木枠に画布を張り込んだシンプルなものです。作者の表現に合わせて画布の種類や画肌、張り具合を調整できるので、自分好みに合わせた張りキャンバスを作ることができます。
今回はそんな張りキャンバスの一般的な張り方をご紹介いたします。ぜひこの機会に貼り方をマスターして、キャンバス張りにチャレンジしてみてください。

キャンバスの張り方(準備編)

キャンバスを張るために必要な道具類をそろえよう

①木枠

画布を張るための枠で棒状のものを組み合わせて枠組みにします。素材は杉材などの集成材が主流です。
杉材は強度に優れますが、大きいサイズは重量があります。反面、桐材は軽量・安価ですが、杉材に比べると強度が劣ります。大号数や張替えなどが必要な場合は杉材、小さいサイズや習作品は桐材など必要に応じ使い分けていただくのが良いでしょう。
木枠(杉材)

②画布(キャンバス)

支持体となる画布は麻や綿の繊維を格子状に編み込み絵画用の布にしたものです。麻地のものは繊維の大きさにより「荒目」「中目」「細目」など画肌の種類があり、作品のイメージに合わせ選ぶことができます。
市販のものは、大よそ目止めや上塗りが施されており、木枠に合うようにカッティングされているためすぐに使うことができますが、ロールなどから裁断する場合は木枠サイズ+木枠の厚さ+2~3cm(一辺)大きめに裁断します。(PMS規格などはFサイズの画布をカッター等で裁断して使います)

画布(麻地)

③キャンバス張り器

画布を挟みこみ、テコの原理で引っ張ることでテンションをつける道具です。制作する号数により挟み口の幅を変えることでより効率よく作業が行えます。

張り器

④キャンバスタックス(釘)

画布を木枠に張るための専用釘です。鉄製や真鍮、ニッケルメッキなど素材もさまざまです。

キャンバスタックス(釘)

⑤キャンバスハンマー・釘抜き

キャンバスハンマーは、木枠を組んだり、タックスを打ち込む際に使用します。一般的な金槌でも代用できますが柄が短く、小ぶりのものが使いやすいでしょう。専用のものは、釘抜きが付いていたりと使い勝手のよいものもございます。
釘抜きは、仮打ちしたタックスや打ち損じたタックスを木枠から抜くためのもの。打ち込んだタックスと木枠の隙間に差込み、テコの原理で抜きあげます。無理に抜こうとすると画布や木枠を傷つけることもあるので注意しましょう

キャンバスハンマー・釘抜き

⑥その他

木枠を組むときなどにハンマーなどで木枠を破損させないように1枚、板を当てるとよいでしょう。専用のものはございませんが、適当な大きさの薄い板やダンボールを何枚か重ね余った画布でくるむと衝撃も分散して破損防止に役立ちます。

三角定規・スコヤ(直角定規)
組んだ後の木枠の角が直角かどうかの確認に使います。木枠が歪んでいると画布もきれいに張り込めないためしっかり確認しましょう。

当て板・スコヤ

キャンバスの張り方(環境偏)

アトリエや作業場などで行うのが最適ですが、ご自宅で作業を行う場合は床や壁を保護しながら行うようにしましょう。打ち込んだタックスを下にした時に床を傷つけたり、大号数の木枠で壁や天井を破損させたり等は、よく聞く事例です。
また、細かいタックスを落として踏んでしまったりすることもありますので作業環境には注意をはらいましょう。

画布は天然の素材の為、温湿度により張り具合が異なります。特に画布に使われる麻地は湿度により伸縮する性質のため、張るときの環境は適度に湿度のある場所や雨の日などが最も適しています
高い湿度で緩んだ状態の画布を木枠に張り込むと湿度が低くなった時に張りが「ピン」となり高いテンションが生まれます。逆に乾燥した状態で張り込むと湿度が上がった時に画布が緩んでしまう恐れがあります。

木枠にもいえる事ですが、急激な温湿度の変化は反りやねじれの原因となりますので注意が必要です。

キャンバスの張り方(実践偏)

準備と環境がととのったら、実際にキャンバスを張ってみましょう。

【手順①】木枠を組み立てる

木枠は四角形を形成する4本の親木と補強材としての桟木で構成されています。桟木はサイズにより本数が異なり、大号数には複数、小号数には入っていません。

①-1 木枠の表裏を確認します。
概ねサイズ表示や印字があるほうが裏(画布を張らない方)で表側には傾斜角がついていますので間違えないようにします。※桟木も表裏があり、角が丸いほうが表面です。

①-2 表裏を確認したら木枠を組んでいきます。
45度にカットされた木枠の角(ホゾ部)を組み合わせます。最初は手で押し込み、完全には組まず全ての角を仮組の状態にします。


①-3 仮組み後、木枠に当て板をあて、ハンマーで少しづつ形を整えます。
木枠の中央部を強くたたき過ぎると木枠が割れる場合がありますので注意しましょう。※中桟木がある場合は桟木に長手の親木を差し込み、短手の親木を仮組みします。

①-4 表面の角(45度の部分)が四隅ともきれいにはまったら、三角定規をあて各辺直角が出ているか確認して、ずれている場合は少しずつ調整します。

直角を確認したら完成

<ポイント>
★木枠をたたくときは常に真上から打ちましょう。斜めから打ち込むとホゾや木枠本体の破損につながります。

【手順②】画布と木枠を組み合わせる

画布を裏返し、組み上げた木枠を画布の裏にあて位置を調整します。このとき木枠の表裏を間違えないように注意してください。(傾斜角がついているほうを画布裏面に当てます)

画布の余白が均等になるように木枠を中央にセットします。
画布は木枠のサイズより一回り大きいものを用意します。目安は木枠のサイズ+厚み+2~3cm(一辺)ほどです。

例)F10号(530x455mm)木枠厚み20mmの場合の画布サイズ目安
長手 約630mm(530+20+20+30+30mm)
短手 約555mm(455+20+20+30+30mm)


木枠より一回り大きい画布を用意
木枠の表裏に注意

<ポイント>
★画布の余白が小さすぎると張り器で挟みづらく、適切なテンションをつけられません。カットする場合は、木枠厚と挟み代に気をつけましょう。

【手順③】画布にテンションをかけながらタックス(釘)でとめる

③-1 セットした画布と木枠の両方の長辺を押さえながら、長辺が天地になるよう木枠を垂直に立てます。

画布を押さえ長辺が天地になるように立てる
③-2 下部の画布を木枠と地面で挟みつつ、上部の長辺の中央部分にタックス(釘)仮打ちします。
※仮打ちはタックスを全て打ち込まず、数ミリ浮かした状態をいいます。
※タックスは最初、少し指で押し込む形で木枠に埋め込み、ハンマーで軽く打ち込みます。
ハンマーは真上から垂直に打ちましょう。斜めから打つとタックスが曲がったり画布に食い込んで画布破れの原因にもなります。
指で少しタックスを押し込む
抜けない程度にハンマーで仮打ちする


③-3 続いて2本目はもう一方の長辺の中央部へ、今度は張り器でキャンバスを挟み込み引っ張りながら仮打ちします。
同様に短辺の中央部へキャンバスを引っ張りながら仮打ちし、4点(①~④)を固定します。
なお、基本的にキャンバスを引っ張る力具合は全て均一にするとシワがよりづらくなります

4点を仮打ちするとキャンバス表面中央にひし形のシワ模様が出ます。※シワは伸びにくければ更に四隅を仮打ちします。(⑤~⑧
4点仮打ちすると中央に菱形のシワができます
余白の画布を挟み込み
張り器下部の爪を木枠に押し当て、テコの原理で画布を引っ張る。
③-4 仮打ちが終わったら、再びに戻りタックスを釘抜きで抜き、今度は張り器で引っ張りながら、本打ち(最後までしっかり打ち込む)をします。同様に②~④も引っ張りなおしながら本打ちします。※⑤~⑧の仮打ちは一番最後に本打ちするので仮打ちのままテンションを保持しておきます。

③-5 4点の本打ちが終わったら、各辺の中央部から外側に向けて順番にタックスを打っていきます。(⑨~⑫)※最初にできた菱形のシワを少しづつ外側に伸ばしていく感じです。タックスを打つ間隔はサイズによっても異なりますが、だいたい3~5cmくらいで各辺のタックス間隔が均一になるよう調整しましょう。

仮打ちのタックスは釘抜きで引き抜く
タックスの間隔は均一にします。
各辺、最初にある程度打ち込む場所を決めておくときれいにそろいます。

<ポイント>
★仮打のタックスは、木枠の中央からやや奥側(表面寄り)に打ち込むと本打ちするときの引きで画布穴が手前にずれ、木枠の中心に打つことができます。
★号数が大きいときは四辺中心のみタックスを2本で固定すると、画布破れの防止になります。

【手順④】仕上げ

④-1 四辺角までタックスを打ったら⑤~⑧の仮打ち部のタックスを抜き、張り器で引っ張りながら本打ちします。

④-2 最後に角の部分の余った画布を内側に折り込み、最後のタックス(⑬~⑭)を打ち込み仕上げます。

最後の角の部分は画布を内側に折り込む
折り込んだ状態で張り器で引っ張りタックスを打ち込む

④-3 表面にシワのないことを確認して『完成』です。

<ポイント>
★角の折込部は画布が二重になるので、打ち込んだタックスが抜けやすそうな場合はもう1本打ち込みましょう。
★最初は表面のシワを確認しながら、タックスを打ち込みましょう。打ったタックスより内側(中央側)にシワが拠っている場合は一度、タックスを抜き、再度、張りを調整しながら打ち直します。

まとめ

最初はなかなかきれいに張りあげるのは難しいかもしれません。張り器の引っ張り具合やタックスの打つ間隔などで簡単にシワがよってしまうからです。しかし、何度も練習を重ね、慣れることで仮打ちもせず、シワのないピンとした張りキャンバスが張れるようになれます。テンションの高いキャンバスをはじいた時の音を聞けば、制作意欲もきっと高まりますよ!